”ブラック・ジャック”。
日本人なら誰もが知っている手塚治虫先生が描かれた漫画です。
「ブラック・ジャックはいつか大事にしっかり読もう!」と温め続けていましたが、ついに今年BOOK OFFで100円という安さで売られていることに暇な夏休み気づいてしまい購入。(手塚作品があんなに安いなんて….)
5巻まで一気読みしましたが、驚くべきは内容の劣化がほとんど無いことです。
確かに冷戦などの過去の話題がモチーフとなっている話も多くありますが、人々が生きていく上で持ち続けている不朽の問題が話の中心に置かれているため、今を生きる私でも共感できる内容が殆どでした。
ブラック・ジャックというシリーズはアトムのアニメ化の後、手塚先生が二進も三進も行かなくなった1970年代に描かれたものです。
この年は学生運動が下火になったり景気が伸び続けたりと、日本が安定に向かいつつある時代です。
また日本万国博覧会が開催されたり、逆に暗い話だと三島由紀夫が切腹した年でもあります。
漫画内では人がよく飛行機に乗るシーンが出てきますが、これはジャンボ機の就航による割引運賃が導入され、旅行費用が大幅に下がって海外旅行がより身近になったからでしょう。
ブラック・ジャックは手塚先生自身が明るくなりつつある時代においてけぼりにされた分、暗いテーマでかかれた作品でした。(劇画からの影響については今度記事にしたいです)
今回取り上げるのはそんなブラック・ジャックの「なんという舌」。
このタイトルで既にネタバレとなっているのですが、日本語だからこそのいい味を出している題名だと思います。(英語では「Abacus Without Arms」と書いてありました)
この話は秋田書店さんから出ている文庫の5巻に載っています。
ブラック・ジャックとして平均的な長さである20ページ。(タイトル含め)
※ここからネタバレ
お話は、
そろばん大会で順調に勝ち続ける村岡くん。(今回の主人公)
しかし彼は長時間指を使えない状況にあった。
原因は彼が手術で腕を手に入れたからである。
↓(回想シーン)
村岡くんはサリドマイド児で短肢症であったが、舌でそろばんがとても速く弾ける特技があった。
なので村岡くんの女性担任(?)は、人前でも弾けるようにブラック・ジャックに手術を依頼をした。
ブラック・ジャックは渋々依頼を受ける。
手術が成功した村岡くんは訓練を始めるのであった。
↓(三年後の始めの場面に戻る)
決勝まで勝ち進んだが勝負中に疲れて指が動かなくなる。
が、諦めきれず舌を使って見事にそろばんを弾き始めた。
ここで一部の人間がルール違反ではないかと異議を申し立てる。
↓
異議はあったが、村岡くんの姿に感動した審査員(?)が舌でそろばんを弾くことを許可し、改めて村岡くんは最終決勝に挑むのであった。
とりあえずサリドマイドについて↓
サリドマイド事件戦後の経済成長期であった1960年前後に、サリドマイドという医薬品の副作用により、世界で約1万人の胎児が被害を受けた薬害事件である。 この薬には、妊娠初期に服用すると胎児の発達を阻害する副作用があった。 被害児の多くは命を奪われ(死産等)、あるいは四肢、聴覚、内臓などに障害を負って生まれた。(http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n410/n410001.htmlyより引用)
この話は今でも理解出来る問題が横たわっています。
ハンデがあり負けそうになる→しかしハンデすらも飲み込んで自分の力で乗り越える。
この話はこのようにまとめられると思います。
綺麗な王道です。
私は、次に最後のコマのブラック・ジャックの去り方に注目しました。
毎回ブラック・ジャックの最後のコマは、ブラック・ジャックという主人公がその話の中心となる題材についてどう思っているかが1番よくわかるタイミングです。
パターンは、
⑴無言で去る。
⑵その話の主人公たちを無言で見つめている。
⑶人生や医者について(憎々しく)語る。
にだいたい分けれると思います。
「なんという舌」はこの⑴のパターンですね。
さらにいうと、今回はあまり寂しさややり切れなさを背中で表すこともせずにさっぱりと描かれているように見えます。
むしろ、自分の役目はとうに果たしていたかのような….
これはなぜだろうかと思いましたが、村岡くんの結果を考えれば当たり前なのかも知れません。
分かりやすいのはこのシーン
この”ふーん”という顔からわかる通り、この手術にブラック・ジャックは乗り気ではありません。
勿論、依頼を引き受けた以上100%しっかり成功させます。
そうではなくて、
ブラック・ジャックはこの時点で既に自分の手術が成功した次の段階に目を向けていたのではないかということです。
手術をすることで問題は解決しない。
つまり「手術は村岡くんが成長するための道具」という風にブラック・ジャックは自身の手術を置きに行っているのです。
結局、村岡くんは舌という本来の自分の努力してきた方法で問題を解決させます。
ある意味では腕の取り替え手術は必要なかったわけですね。
しかし、手術がなければ今一歩勇気が出なかったであろうことも事実。
そういうことがわかっていたからこそ、ブラック・ジャックは手術を渋々完遂したのでしょう。
きっとブラック・ジャックは自身も手術を通して勇気をもらったことを思い出していたのではないでしょうか。
一方で、気に食わないキャラが一人います。
それは、”優しい”女性教師です。
先生の手の平クルックルですよこれは!
からの↓
先生は最初から村岡くんの努力をそのまま出させてあげるべきだったと私は思ってしまいます。(決勝でいきなり舌でソロバンをやるインパクトまで、先生は計算はしてないでしょう……。)
描写としては、手術シーンとそろばん大会のコマが交互に映るところや、筋肉をきるシーン(↓)が中々面白かったですね!
ぜひ病院などの本棚で見かけたときは読んでみてください!